感想


# 2026-02-24

クリスマス・ソングが好きだ クリスマス・ソングが好きだというのは嘘だ

佐クマサトシ「vignette

いちばん好きな短歌だ。Aかつ非Aというもっとも根本的な矛盾が短歌になっている。
ふたつの主張のあいだに時間経過があるとか、ひとつだけが真なのだとも考えられる。しかし、これぐらいの矛盾は当然で、それを短歌にすると驚くようなものになるのだ、とするほうが魅力的だと思う。


# 2026-02-24

強そうにアナグラムしてあげようね消えゆく森のレッパ・サンダー

田中有芽子「私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない」,p. 70

大学の軽音部にカシワギさんという人がいて、海外留学にいくことになったので「ワギサヨナラパーティー」が開催された。
当時、その軽音部はアナグラムに熱心に取り組んでいたので、「パギサヨナラワーティー」「ティギヨサナラパーワー」などあらゆる組み合わせが試された。
どれが優勝したのかは覚えていない。

誰に言っているのかわからないが自分の言いたいことを言い切っている、というのがこの短歌のいいところだと思う。
「私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない」にはそれがいくつもある。短歌の掲載順が50音順なのは合理的だ。


# 2026-02-23

わたしとまったく同じすがたの動物がわたしに向かって前肢まえあしを折る

布野割歩「親和」

複製や鏡写しは魅力的だ。
「わたしとまったく同じすがた」の動物が、おそらく馬が座るときのように前肢を折っている。同じすがたであっても身体のつくりがちがうのかもしれないし、わたし自身が四足の動物なのかもしれない。
個人的には前者の解釈をした。完全な複製は世界に新規性を生まないが、複製しきれないなにかが残ればストーリーがうまれる。

「わたし」を中心に配置された8音の字余りに一定のテンポがある。


# 2026-02-23

特別な進化条件 DSを特攻機に持ち込み離陸する

~1000「Children in a Defeated Country(東北大短歌 第八号)」

特攻機という題材は極限的なので、そこにDSを持ち込んでもなにかを変化させられるわけではない、という構図があると思った。
「進化条件」はポケモンのそれを思い浮かべた。この進化条件を達成するのはむずかしく、進化させたとしてパイロットは今後ポケモンで遊ぶことはないだろう。特攻というできごとはこの仮定のもとで変化していない。


# 2026-02-15

I M P O R T A N T 思い出と花々を束ねた

大頭非力

視覚的な短さが目を引く短歌で、しかし、おおむね定型になっている。アルファベットをひとつずつ口に出すと暗号のような響きもある。
少ない言葉で多くのことを語れるのはすばらしい。その意味でこの短歌は理想的だと思う。


# 2026-02-15

夜にもっとも頼れる脚のリストからあなたが借りてくる青い馬

甲斐

いつ見てもかっこよくて、こういう短歌を作りたいと思う。シンプルな語彙で世界を表現している。
初句七音が3+4で、「もっとも」という強いことばが強拍にあるのが気持ちいい。アウフタクトで演奏をはじめて、小節の頭に「もっとも」がくるような感じだ。
「リスト」という単語もいい。リストには機械的/暴力的な側面がある。Wikipediaの珍しい死の一覧に掲載されている人たちは、お互いの共通点を思うこともなかったはずだ。
しかしこの作中の「リスト」はネガティブなものではなさそうで、クールな雰囲気がある。


# 2026-02-15

そうしてわたしたちは偽物の指環を埋めた遠くの人にこれからわるいことが起こると知りながら

野村日魚子「百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た」,p. 160

野村日魚子の短歌でよく思い出すもののひとつ。
遠くまでとどく力は魔術的だ。引力や電磁気力、放射線。この短歌にはそういった力のもついやらしさがよくあらわれていると思う。被害者だけでなく、加害者もそれに抵抗できない。
「そうして……」からはじまっていて、長いストーリーの結末とも思える。
倒置法の効果もあって一息で読みたくなった。書籍では、改行によって長方形に近くなるように文字が組まれている。